昔の話 ⑥小さなバレエ団で

昔の話です。

 

これまでの流れは、

昔の話 ①某有名経絡治療大家へ弟子入り

昔の話   ②研修生時代

昔の話   ③大学附属総合病院整形外科研修

昔の話   ④整形外科・内科クリニック時代

昔の話   ⑤バレエとの出会い

 

 

 

ある日、

ご紹介いただいた小さなバレエ団に、

自分を売り込みに行きました。

 

自分に何が出来るのか、

自分なりにアピールしました。

 

ちょうどその頃、

バレエを教えるにあたっても、

解剖学や運動学の知識が必要だと、

バレエ団の皆さんが、

感じておられたタイミングだったようです。

 

飛んでくる質問に、ライブで答えるやりとりが、

面白かった事を覚えています。

 

「なぜ、私は足が上がらないのか?」

「なぜ、肩が硬くてみんなと同じポーズが出来ないのか?」

 

そんな身体についての悩みを、

解決に導いてくれるのではないか?と、

期待して下さったことから、

私はその小さなバレエ団で、お仕事することになりました。

 

 

週に一回居る、

「保健の先生」的な立場でした。

 

 

 

簡単な解剖学のレクチャーを、

生徒さんやダンサー達に向けて、

毎週行いました。

痛みや問題を抱えている

生徒さんやダンサー達の、

治療やアドバイスを行うこと。

バレエの先生方や親御さんに、

必要な事をご説明すること。

 

 

必要であれば、

医療機関に紹介状を書く事もありました。

 

子供達に、

身体のことを簡単に、

でも的確に教えることは、

初めての経験で、

とても勉強になりました。

 

バレエダンサーが、

創り上げたい理想の身体について、

いっしょに考えて、学んで、知って、

アウトプットしてゆく作業でした。

 

実際に、

トラブルを抱えた身体、

理想的な身体のバリエーションに、

たくさん触れることが出来ましたし、

 

動く身体を、穴があくほど、

「見る」ことも、

 

所見をとって

「診る」ことも、

許されていたのです。

 

同じエクササイズをしている身体でも、

使われている筋肉が違う事を、

ハッキリと見て触る経験が出来ました。

 

例えば、

 

トウシューズの中は、

普通は見えないけれど、

裸足のまま、

トウシューズで立つように、

立ってもらうと

←バーで身体を支えながら

どの様にトウシューズの中で立っているのか、

知ることが出来ます。

 

どこに荷重がかかっているか?

指が伸びているか?曲がっているか?

内側外側に傾いていないか?

 

マメの位置によっても、

どこに弱さがあるのかわかります。

 

 

 

面白いこともありました。

 

どうしても、

ピルエットを上手く回れない生徒さんがいました。

その生徒さんが、

レクチャーをきっかけに、

ピルエットが回れるようになったというのです。

 

そのレクチャーは

首回りの筋肉がテーマでした。

 

「胸鎖乳突筋」について紹介しました。

 

胸鎖乳突筋は、バレエを習う生徒さんには、

とても身近な筋肉です。

お手本とする先生の胸鎖乳突筋も、

鏡に映る自分の胸鎖乳突筋も、

見慣れているからです。

 

でも、その生徒さんは、

それまで、

胸鎖乳突筋のことを、

「骨だ」と思っていたらしいのです。

 

ダンサーの美しい胸鎖乳突筋は、

骨のように硬く見えたのかも知れませんね。

 

でも、学んだことから、

骨ではなくて、筋肉という認識で、

レッスンをするようになりました。

すると、

それから、ピルエットが回れるようになりました。

 

嘘のような本当の話です。

 

 

 

 

 

レクチャーをしながら、

エクササイズの指導をして、

その状況を確認するために、

一人一人の身体を触診してまわる事も、

良くありました。

 

足を後ろに挙げるアラベスクは、

同側の殿部の筋肉がフルに働いて、

出来る動きと思われますが、

 

挙げている足の内側ハムストリングと、

反対側の脊柱起立筋で

挙げている身体がありました。

 

50人位いる中の、一人でした。

 

 

後に、

ヨーロッパでダンサーをたくさん診察している

理学療法士さんのセミナーに参加しました。

 

身体を痛めない使い方として、

先ほどの、50人中一人の使い方がベストだと学びます。

 

進化させた身体の使い方を、

ダンサーはしているのでした。

 

 

 

身体を進化させながら、

思いを遂げるために、

ダンサーの皆さんは、

踊り続けていました。

 

その、気持ちの強さは、

格別な物でした。

 

実際、トップに上り詰めて行くダンサーは、

おそらく、

可能性を広げて、創造しながら、

生きているのです。

 

その中で、

人間の身体について探求した知恵(鍼の治療を含めて)を、

仕入れてダンサーの為に活用するのが、

私の仕事でした。

 

ダンサーが求めていることにフィットすることもあれば、

問題解決にならないことも多々ありました。

 

その時の、問題解決できなかった内容について、

テーマとして、今でも持ち続けています。

 

 

「可能性を広げて、創造する。」

人間は、ダンサーも鍼灸師も、

生きている限り、創造をしながら生きる生き物ですね。

 

日本のダンサー達が、

世界で活躍するようになりました。

 

鍼灸師も、何を創造したいのか?

私も、何を創造して経験したいのか?

真剣に向き合いたいと、思っています。